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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「大体あたし、イケメンぶりだけでくらくらする女なら、とっくの昔に須王におちていたわ。いまだ棗くんの顔、まだ思い出せないのよ、高校時代の。十二年前の女装している棗くんの方が、ぼんやりと思い出せるのに、どうして学び舎では思い出せないのか。ねぇヒント頂戴よ」
「駄目。自力で思い出せ」
「もう、棗くんと同じこと言う。同じクラスの男子生徒なんでしょう? 白城くん……ぼんやりとでも思い浮かばないし。どんな髪型? クラスで友達いたの? それともいつもクラスを出て須王と一緒にいたのかなあ? だったらわからないや」
「そういやお前、すげぇ取り巻きが多かったよな。お前を守っている壁みたいな」
「ああ、家族に群がってね。音大に推薦決まった時まで集まってきたのに、取り消された途端、蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。わかりやすい同級生だったな」
須王が悔いを滲ませるようなため息をついた。
「もしそのまま音大行ってたら、あたしはプロのピアニストになって、上原家に恥じない活躍が出来たのか……というとそれまた微妙。あたしお兄ちゃんのように天才的な才能はなかったから、高校時代で既にこの先に不安を覚えていたし。だけど親が決めた道だから仕方がなく、音楽の道を行くつもりで」
「………」
「親の敷いたレールの上で走っていても、いずれ行き詰まり、遅かれ早かれ取り巻きも家族も、あたしの元からいなくなっていたと思うんだ。あたしは、音楽が出来る娘でなければいけなかったから。もしも親が須王を見ていたら、その才能に間違いなくあたしを捨てて、須王を育てると思う。養子にしたりして、一緒にメディアに出ていたかも」
走行車のヘッドライトが目に眩しい。
「そうなれば、もしも九年前にあたしと須王が両想いになって付き合っていたとしても、いずれ別れさせられたかもしれないね。或いはあたしが僻んでいなくなるか、須王が忙しくてすれ違うか」
母は凄く面食いで、外に父以外のたくさんの愛人がいたことは知っている。
姉もそうだと思っていたけれど、須王の組織に飼われていたのなら、そういう素振りだけをしていたのかもしれない。
少なくとも上原家の女に、須王は奪われただろう。