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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「……あたしは、それがベストな人生だとは思わないんだ。音楽を奏でられなくなったからこそ、須王の音楽を純粋に感じ取って心酔出来ると思うから」
「柚……」
「今、結構あたしの記憶とかもぐちゃぐちゃになっているのがわかって、〝もしも〟という仮定を考えてしまうんだ。もしも過去がこうであったのなら……だけどどう考えても、須王と一緒にいるのが幸せだと思えるのは、今の状況しかないの。他の選択肢には、バッドエンドになりそうな気がして」
少し黙り込んでしまったあたしに、須王が静かに言った。
「……俺もよく考えるよ。もしも俺の母親が違う女だったら。もしも俺を捨てずに愛情を注いで育ててくれたら、組織に行き着かなかっただろう。……だけどそうしたら俺は、唯一無二の親友を持たず、あいつを助けることも出来ず。音楽とは無縁の世界で、普通の会社に就職してサラリーマンをしているとしたら……。そう考えると、組織で受けた苦痛がねぇ分、生温い世界でつまんない人生送っているだろうなと思っちまう」
「………」
「組織に入っていなければ、お前と出会えたとしてもお前を守れねぇ。なによりお前と会えねぇ人生はまっぴらご免だ。だけどこうも思う。俺の人生が別のものであったとしても、きっとお前は俺の前に現われ、俺はお前を好きになるってさ。今の俺の人生を変えた影響力を、どのお前も持っている。俺がいるのなら、お前をバッドエンドにしねぇよ」
須王の言葉は力強くて、あたしは目頭が熱くなった。
どのパラレルワールドにも須王がいてくれたのなら、きっとあたしは巡り会える……そう思ったら、どんな結果になろうとも須王と相対できること自体が、素敵なもののように思えた。
「柚」
「なに?」
いつでも須王に巡り会えるのなら、きっとそれは運命。
それだけが真理ならば、どんな苦難も乗り越えられそうな気がするのは、あたしが単純だからだろうか。
「明日のブルームーン、一緒に見よう」
「うん」
「俺の部屋に来いよ。抱き足りねぇ分、明日に回して一緒に寝る」
どくりと心臓が鳴る。
本当にこの男の不意打ちのような率直かつ本能的な言葉に、どれだけあたしの心臓は早められているのだろう。このまま寿命を早める気なのだろうか。