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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
 

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 小林さんのランクルを棗くんが運転し、助手席に須王が座った。
 裕貴くんはカーナビにも劣らない立派な道案内をしてくれたけれど、裕貴くんを送り迎えしている棗くんは、裕貴くんの学校周辺にある病院名だけですぐわかったようだ。

 東京都文京区お茶の水――。

 古くから有名病院施設が建ち並ぶ学生街でもある。
 風致地区で景観のいいこの地域の一角に裕貴くんの通う私立の高校はあり、そこから徒歩圏内に病院があるらしい。

 車が向かった東亜大付属病院は、亜貴の入院を拒否られたところだ。
 難病を多く治療していることで有名なこの病院に、病院から見捨てられた患者を受け入れると聞くが、それでも移植しか打つ手がなかった亜貴は、治療できないと見捨てられた。
 お金でも積めば違ったのだろうかなど、今でもひねくれて考えてしまう。

 駐車場に車を停めて、全員で古くて冷ややかな病院内に入り、四階の連絡通路で繋がっている入院病棟に入り、ナースステーションに声をかける。

「あ、裕貴くん。お久しぶり」

 応対してくれたのは、裕貴くんも見知っている看護師さんだったらしい。
 看護師は三十代くらいだと思われるにこにことして可愛いお姉さんで、須王を見ると、早瀬須王がわからないなりにもそのイケメンぶりに真っ赤になり、前髪を手ぐしで梳かし始めた。
 少しでも綺麗に見られたいという女心は十分にわかったけれど、共感どころかむかむかしてしまい、須王の人差し指をきゅっと握ってしまう。

「早苗ちゃん。遥まだいるよね?」

 そんな看護師さんを引き戻したのは裕貴くんの声だったようだ。

「いるけど……容態が悪くなったから、いつもの部屋ではなくて奥の特別室に移動してるわ。何回かあったでしょう、あの場所よ」

「了解」

「まだ面会謝絶よ?」

「それでも、外から声だけでもかけていくわ」

「あまり騒がないでね」

 突き当たり奥にある自動ドアの向こう側には、ひとつのドアがある。
 いい加減、VIP並の特別室を見てきたからいちいち驚くことはないが、待合所やテレビは、必須なんだろうか。
 病院なんだから、家族より患者だけに気を配ればいいのにと思ってしまう。
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