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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
 
 ここはセキュリティ設備はなく、訪問者は誰にでも開かれているようだ。

「遥の病気は自己免疫疾患という、自分自身を攻撃してしまう難病みたいで、その中でも特殊中の特殊みたいで。部位というより全身に炎症を起こしてしまっていると聞いているよ。だから起き上がるのもままならない状況だったんだ。面会謝絶の直前でも」

 裕貴くんはそういいながら、突き当たりにドアの前に立った。
 名札は「堀内遥」となっており、面会謝絶の札が掛けられている。
 
「ここの特別室を使う時って、本当に容態が悪いときで。移植をした後なんか、外の僅かな菌でも過敏に反応してしまうから、大変みたいなんだ」

「移植、したの?」

「うん。小さい時にだけどね。遥との出会いは幼稚園の時で、その頃から随分と入退院を繰り返していて、俺が遥と遊んだのはほぼ病院の中だった。まだ元気だった頃は、車椅子を押していろんなところに連れていったけど、結構小さい時からいろんなところを移植したみたいで、それが今祟っているんじゃないかなって俺は個人的に思う」

 裕貴くんはあたし達を見て言う。

「だってそうだろう? 自分の中に他人がいるんだぜ?」

 その言葉に、あたしの頭の中になにかが、ちり……と音をたてた。

――それは、〝あたし〟だって言えるの? 

 頭が鋭い疝痛に襲われて、思わず頭を抱える。

「どうした、柚」

「な、なんでもない……。ちょっと頭が痛くて」

「柚、診て貰うか? ここ病院だし」

「大丈夫だよ、裕貴くん。うん、治った」

 それは誇張ではなく、本当に痛みが薄らいできている。
 一過性のものだったらしい。
 一体なんだったのだろうか。

 須王があたしの頭を胸につけるようにして支えながら、裕貴くんに言った。

「遥が昔から入院していたのは、ここか?」

「うん。難病の中でもあまりに特殊で稀な症例だからと、他の病院からもたくさんの教授達も勉強に来ているみたい。嫌だよ、遥が客寄せパンダみたいに思われて」

 須王は目を細めてなにかを考え込んでいる。
 どうしたんだろう。
 
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