この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「遥の両親は?」
「お父さんはいなくて、お母さんは普通の主婦だよ。どこにでもいるような。ここ数年は俺じゃなくて、うちの母ちゃんとばかり会っているみたいだけど。茶飲み友達みたいだ」
「……金持ちなのか、遥の家」
「別にそうは思ったことはなかったなぁ……」
「遥は今でどれくらい入院しているんだ?」
「俺の中で、家に帰れたのは数えるほどだったから、ずっと入院していると言った方が正しいかも知れない」
須王は怜悧な目をして言った。
「だったら、遥の入院費はどこから出ている?」
「あれじゃないですか、難病疾患は治療費とか無料じゃ……」
女帝の言葉に、須王は緩やかに首を横に振った。
「指定難病疾患かどうかはわからなくとも、特別室も無料で使えるのは、相当のVIPか」
「もしくは、モルモットね。研究対象としての」
須王の言葉を、棗くんが続けた。
「つまり、母親は〝実験〟に同意しているということになるかしら」
「同時に、謝礼金かなにかを貰っているかも知れねぇな」
「ええ。表の金か裏の金かわからないけど」
子供の苦しむ金で生活する母親。
それはひとつの形かもしれないけれど、少なくとも亜貴の母親の場合は、毎日泣いて泣いて酷かった。恐らくは謝礼金を貰っても、使うことが出来ないだろう。
「でもあのおばさん、そこまであくどいひとじゃないんだけどなあ。俺の知っている限りは、にこにこしていたけど」
「母親の外面と内面が同じかなんて、外からはわからないものだ」
須王は呟く。
「子供だって、まさか裏切られるとは思わないだろうさ」
「須王」
あたしは須王の背中をポンと叩くと、須王ははっとしたようだ。陰鬱だった翳りが少し薄らいで、須王は曖昧に笑って見せた。
きっと須王のお母さんも、外からは子供を捨てるようなひとには見えないのだろう。もしくは、そうであって欲しくないと思う子供の願望かもしれないけれど。