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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「ねぇ、この中、ひとの話し声が聞こえるけど」
ドアの一番近くにいた女帝が怪訝な顔をした。
「ということは、看護師なり医師なり出てくるのかも」
須王と棗くんは顔を見合わせ、須王が面会謝絶の札を毟り取った時、棗くんがドアを開けて、朗らかな声を出した。
「すーちゃん、来たよっ!!」
……すーちゃんって誰ですか?
「棗くん、ここは……」
あたしと裕貴くんの口を手で抑えたのは須王だった。
「あれ、すーちゃん?」
中に入ると、ベリーにも似た甘い匂いがした。
どこかで嗅いだことが歩きがする。
有名な香水かなにかなんだろうか。
色々な機械が見えて、ピッピッと音をたてている。
機械からベッドと思われるところにコードが伸び、尋常では内雰囲気があたりを立ちこめる。
半透明なカーテンのような仕切りは、まるで集中治療をしているかのよう。
否、実際そうなのだろう。
遥くんは重篤なのかもしれない。
駆けつけようとした裕貴くんを、須王が抑えて後ろに後退した。
半透明のカーテンの奥で動いているのは白い服を着た数人。そのうちのひとりの白衣を着た男性が、こちら側に出てきて怒鳴る。
「ここは面会謝絶だぞ!?」
「あ、すみません~。ここのでしたか、別のところの部屋かと思って、後でナースステーションに返そうと思ったんですが。ね~、奈緒」
「ね、ね~。それよりここ、すーちゃんの病室ではないんですか?」
だからすーちゃんって誰ですか。
「ナースステーションに聞け! ほら、治療中だから出た出た!」
その時、半透明のカーテンに内側から血しぶきが飛ぶと同時に、あたし達はドアから出されて、鍵を閉められた。
ドアからはなにをしているのかわからない。
「遥、一体どうしちまったんだよ。遥!」
泣く裕貴くんはそのままナースステーションに駆け、皆が追いかけた。
ひとり、棗くんが立ち止まって考え込んでいるようだ。
須王も棗くんに気づいて戻って来て、声をかける。
「棗?」
「……」
「棗くん、どうしたの?」
ふたりがかりの質問で、ようやく棗くんは顔を上げた。
その面持ちは緊張に強張っている。
「あれは柘榴の匂いだった」
「え?」
「AOPの匂いの可能性が高いわ」