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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
最初、なにを言われたのかわからなかった。
だけどようやく記憶を辿り、内調の棗くんが追っているという、世界規模で記憶を失わせる柘榴の香り……その匂いだと言っているのだと思い至った。
やがて棗くんは歩き出し、女帝の肩を叩いて訊く。
「あの部屋の匂い、襲撃受けた次の日の木場の喫茶店に漂っていたのと同じ香り?」
すると女帝は怪訝な顔をしていたが、急に手を叩いた。
「そうか、それか。なにかどこかで嗅いだことがあると思った」
「AOPだとしたら、なぜ……」
「待って棗くん。AOPの匂いを知っている棗くんや、さっき部屋の中の匂いを皆で嗅いだのに、どうして記憶が奪われていないの?」
「私が嗅いだことがあるのは、なんの害もないただのサンプルのような匂いよ。それと皆で嗅いでも記憶に影響がないのは、あんな程度の空気に溶けたような香りでは無害だということかしらね。事件が起きて漂う匂いはかなりのもので、嗅覚がいいひとは倒れるほどのレベルだと聞いているし、前にも言ったけど、記憶が失った後の記憶の合成方法もよくわかっていない」
確かによくわかっていたら、棗くんが秘密裏には動かないよね。
「ちょっと待ってよ。遥の担当はなんでここのナースじゃないのさ!」
先に行った裕貴くんの怒鳴り声が聞こえる。
「容態が急変してから担当ナースと医師が数名つくことになったのよ。とても腕のいい医者達だから……」
「さっき、血しぶきが透明なカーテンにかかってたぞ!? あれのどこが腕がいいんだよ、治療でなんであんなに血が飛ぶんだよ!!」
「血しぶき? え……採血でも失敗したのかしら」
「ありえないだろう、採血に失敗してどうしてあんなに血が飛ぶんだよ!」
地団駄を踏む裕貴くんに、さすがの看護師さんもなにかあったのではないかと不安になってきたようだ。
「ちょっと見てみるわ」
そう、ナースステーションから赴くと、自動ドアが開いた。
あたし達を追い出したいけすかない白衣の男性だけではなく、他の医師や看護師もいて、合計で五名だ。