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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
 

「遥をどうしたんだよ!」

 裕貴くんが胸ぐらを掴むから、あたしと女帝は慌てて引き剥がす。

「治療です。見てわかりませんでしたか?」

 大して若くもない医師が、すーちゃんと口にして足を踏み入れてきた棗くんと女帝を見て、剣呑に目を細めた。

「治療に、なんであんなに血が飛び散るんだよ!!」

「あれは、切開治療です。良性腫瘍に膿が溜まっていましたから。よくあることです」

「あんなに血が出て平気なわけねぇだろ!?」

 須王がすっと足を進めて言った。

「見せて貰えないでしょうか。万が一の医療ミスもありえますので」

「時間の無駄です」

「医者は患者の家族の質問に答える義務があります」

 するとその医師は大仰なため息をつくと、他の者達を先に行かせた。
 誰もが仮面を被っているように無表情で、不気味だ。

「そこまでお疑いになられるのなら、どうぞ。きみも来い」

 医師は白衣を翻して、狼狽する看護師さんにも同席を許可して、遥くんの病室に戻っていく。

「――っ!?」

 ドアを開けた部屋には、カーテンも機械もなにもなかった。
 あの物々しい風景は、夢でも見ていたかのようにどこかへと消え去り、ベッドには点滴をつけた少年と思われる若者が眠っていた。

 これは――。

「遥、大丈夫か!?」

「こら、きみっ」

 裕貴くんは病室に飛び込んで、目を瞑っている少年を揺さぶると、少年はうっすらと目を開いた。
 まるで眠りの美女のような美しい目覚め方は、どう見ても天使がその場にいるようで泣きたくなってくる。
 天使と同じ顔が、目の前にある――。
 
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