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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「裕貴……。夢かな、きみとまた会えるなんて……」
その声は、声変わりをした……上野公園でのあの少年と同じもので、美少女だった女の子の天使が持ち得ない声色だ。
ベッドから出したその手は病衣が捲れて、縫われたのか、紫色に変色している引き攣れた傷が無数に見えた。
「夢じゃないよ、現実だよ!」
「もういいだろう。出て行きなさい」
「もう少し! 遥、具合はどう?」
「ん……ぼちぼちだよ」
そう笑う顔は痛々しいくらいに具合悪そうで。
……違う。
HARUKAじゃない。
HARUKAは元気そうだったもの。
だけど顔は同じだ。
ただそこにある溌剌とした生気があるかないかだけの違いで。
「ほら、出なさいっ」
医師に無理矢理裕貴くんは引き摺られた。
顔を捻るようにして遥くんの名前を呼んでいたけど、あたし達も含めてまた追い出されてしまった。今度はナースステーションの看護師さんも、追い出す側に回られてしまった。
天使は置いておいて、少なくとも遥くんがHARUKAだというのなら、抜け出るだけの体力が必要だ。
HARUKAと瓜二つの顔だけれど、あんな状態なら外を出歩けない。
大体抜け出したことを、病院側が知らないはずはないだろう。
……だから遥くんは、天使でもあの子でもない。
あたしの思考がそう結論づけた。
あの顔は天使でもHARUKAでもないと言えるだけの違いは、あたしには見いだせなかったのだ。他人の客観的な判断を重んじれば、寝たきりの美少年がこの病院に囚われていると思う方が、よほど現実的だ。
それにほら、あたしと目が合っても遥くんはなにも言わない。
わからないから、言わないんだ――。
だが、ドアがしまる直前に、鼻歌が聞こえた。
それは、上野公園でギミックの頭が歌っていたのと同じ旋律。
「瞋恚」
須王の目がぎんと細められる。
そして続けて、こう聞こえたんだ。
「……またね、お姉サン。次は思い出してね」