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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
 
 
 棗くんが一枚写真を抜き出して、なにか考え込んでいる。

「どうしたの、棗くん」

 こっそり聞いてみると、棗くんはあたしではなく裕貴くん達家族に話しかけた。

「あの、もしかすると……裕貴のお父さんは、宮田警視総監ですか?」

「え、そうですが。よくご存知で」

 ケイシソウカン、ってなんだっけ。

 その響きにきょとんとしているあたしに、女帝が耳打ちしてくれた。
 
「警察庁のトップよ」

「ええええ!? 聞いてないよ、裕貴くん」

 大体裕貴くんの口ぶりからは、パワーのある女性陣に押されまくりの、影の薄そうなイメージしか感じたことはなかった。
 だからてっきり、どこかのしがない会社に勤めて、(鬼嫁に恐怖しながらも)真面目に家族に給料を届けている、優しい素朴なお父さんだと思っていたのに!

「いや、だって……聞かれてないし」
 
 裕貴くんは悪びれた様子もなくそう言った。

 確かに凄い家庭だと思っていなかったから聞いてはいなかった。
 まあ聞いたからって、裕貴くんに対する態度は変わらないけれど。

「写真ですが……」

 須王が言った。

「遥くんと映っている写真はありませんか? 幼稚園でも構わないので」

「ああ、あるはずだ。俺、その写真を見た記憶がある。確かジャングルジムのところで……まだ遥が元気だった時だ。あれ? なんで遥との写真がねぇわけ?」

「あんたのアルバムじゃない?」

「ああそうか。だったら持ってくるわ」

 そう言って裕貴くんが二階に行く間、ふたりはおすすめショットを両側から須王に見せていた。

 思わずくすりと笑ってしまうと、おばさまがあたしを見た。

「いえ……、裕貴くんとても愛されているなと」

「それはそうよ。私が産んだ子供だもの。目に入れたって痛くないわ」

「……そうですか」

「あなたのご両親もきっとそうよ」

「そう……だといいですが」

 ……きっとない。
 血が繋がっていようと、音楽が出来ない娘は娘じゃない。

「そうよ。親は無条件に子供を愛するもの。そして子供は無条件で愛されるものなんだから。あなた達は全員、ご両親に愛されて生まれてきたのよ」

 須王も棗くんも曖昧に笑う。
 この中で親に愛されているのはきっと、女帝だけだ。
 その女帝も父親を疎ましく思っている。
 
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