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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
その時、裕貴くんがアルバムらしき大きな冊子を何冊か重ねて持ってきた。
「なあ、アルバムはすぐに出たんだけれど、遥との写真がねぇんだよ。なんで突然無くなったんだ? イケメンの写真しか持たねぇはずの姉貴達が、全部抜き取りでもしたのか?」
「……そういう話、一切聞いたことがなかったけど」
「じゃあなんでないんだ? 病室で撮った写真もねぇし」
「なあ、裕貴……」
冷ややかな声をかけたのは須王だった。
「お前、遥との写真を〝見た〟記憶はあっても、〝撮った〟記憶はあるのか?」
おかしなことを……そう思えども、須王の表情は真剣だった。
「ど、どういう意味だよ」
「言葉の通りだ。カメラを向けられ、お前が遥と撮影された時の細やかな記憶は思い出せるのか?」
「そ、それは……」
「どういう時にどういう状況で、誰が撮したのか。お前はすべて記憶があるのか?」
「ふ、普通覚えてねぇよ、須王さん。写真自体が記憶の証明じゃないか」
「だったら、その写真が一切見付からねぇのは、どう説明つける?」
写真が記憶の証明だったら、写真がなければ記憶は証明されない。記憶自体がなかったかもしれない可能性が高くなる。
「家族に決まってるよ。なあ、母ちゃんがばあちゃんか父ちゃんが撮したんだよな?」
「そう言われると……。確かに写真は見た記憶はあるけど、お母さん撮った記憶がないわ。おばあちゃんはカメラを弄れないし、お父さんは警察で忙しいし。お姉ちゃん達は……撮るより撮られる方が好きなの、あんたもわかってるでしょう?」
「じゃあ近所のひととか、遥のお母さんとか……」
「さっちゃんは、携帯もなければカメラも持っていたの見たことないわ」
さっちゃんというのは、遥くんのお母さんのことらしい。
「おかしいわね、だったら誰が撮ったんだろう、あの写真」
撮られた記憶があるのに、撮った記憶がない不思議な写真。
そして、なんで須王はそれを指摘出来るのだろう。
恐らく病院の時点で、写真を持ち出したのは、それなりの仮説があったからじゃないかと思うんだ。