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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice

 
「大体須王さん、なんでそんなことを思うんだよ」

 あたしも裕貴くんに同意して須王を見る。
 なんで須王はそう思ったのか。

 須王は棗くんの方を向いた。

「裕貴」

 棗くんが代わりに言うのか。
 棗くんも、須王の思考に至っていると?

「あなたさっき、遥の病室の匂い嗅いだかしら?」

「うん。木場の喫茶店の匂いだろ? 俺、なにか嗅いだことあったなと思ってずっと思い出せずにいたんだけど、母ちゃん、いつもこの部屋になにかかけているよね、スプレーみたいの。俺の顔に何度かかけたことあるだろ。やめろっていってもしつこく顔に」

「ああ、〝浄化の奏水〟? ああやるといいんだって。だから娘達にも皆にしてるわよ、新鮮なうちが効果あるというから」

 ジョウカノソウスイってなんですか?

「さっちゃんから貰うのよ。幸せになれる音を聞かせた水で、悪いものを消し去るスプレーなんですって。さらに魔除けの柘榴エキス入りであのいい匂いなのよ。さっちゃんが来るたびにシュッシュしてくれるんですよ」

 ……いや、お母様。お金を払っていないから喜んでそう言っているのかもしれませんが、相当怪しすぎやしませんか?

「母ちゃん。俺初めて聞いたぞ、なんだよその幸せになれる音を聞かせた水って!」

「なんでもこの世には、神様のお告げというものが音で構成されているみたいなのよ。言霊とでも言うらしいけれど、言霊の響きで様々な奇跡を行えるらしいわ、〝天の奏音〟」

「〝天の奏音〟!? やめろってそれ、怪しすぎる……よりによってそれかよ。カルトというより、霊感商法じゃないかよ、それは!」

 その通りだ。
 あたしもぶんぶんと頭を縦に振ってお母様を見る。

「そう?」

「気安く信じるなよ。大体幸せになれるなら、とうのとっくに遥は元気になっているだろう!?」

「まあ……」

 子供が難病だから、あの宗教に走ったと?
 確かに藁にも掴む思いなら、怪しいこともわからなくなるだろうけれど。
 
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