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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 

 倉庫裏――。

「ちっくしょ……っ」

 少年がケースから出したギターを壁に打ち付けようとしたから、あたしは慌てて駆け寄り、両手でギターを受け止めた。 
  
「きゃ……いてっ」

 ……勢い余ってあたしが壁にぶつかったけれど。
 おでこひりひりしているけれど。

「だ、大丈夫?」

 少年が心配そうな顔であたしを見るから、多分とあたしは曖昧に答えた。

「はい、ギターは大丈夫。駄目だよ、楽器にあたっちゃ!」

「……っ」

「このエレキギター、ギブソンでしょ? 安くないでしょ、これ。ギターを弾きたくて、バイトとかしてお小遣いを貯めてようやく買えて、こうやってピカピカに磨いて大事にしていた、その思いを忘れちゃ駄目よ」

「知った風に言うなよ」

 少年は中々に、きりっとした若侍系のイケメンのように思える。   
 これは好青年で、学校でモテてそう。
 
「ずっとずっと練習して今日に賭けてたのに、すべてを盗まれた気持ち、あんたにはわからない!」

「盗まれたって?」

 不穏な言葉に、ついつい身を乗り出して聞いてしまう。

「盗まれたんだ。今まで一緒にやってきたメンバーも、俺が作った曲もすべて」

「は?」

 少年は涙が溜まった目を向けた。

「俺達プロを目指して頑張ってきて。ようやく実力でここに招かれたほどになったというのに。それをやっかんだあいつが! 俺のメンバーと今日ここで歌うって! 俺の知らないところで引き抜いてて、俺の曲を歌うって」

 悔しいと、少年は歯軋りをした。

「まあ! 誰よそいつ! パンフレットに出てる!?」

 あたしも聞いていてむかむかしてくる。

 すると少年は、パンフレットのひとつを指さした。

「これ!『Tartaros(タルタロス)』、俺のメンバーと結成したバンドだって」

「タルタロス!?」

「そう! そいつの名前は、三芳史人! MSミュージックの社長の息子で、親もグルになって金にもの言わせて、いつもいつも俺の邪魔ばかりして、どうしてもデビューしようとしてるんだよ」

「MSミュージックって……」

 女帝の弟!?
 
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