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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「だけどあのおかげで、あんたもイケメン風になったじゃない」
「あんな水のせいじゃないよ、それに風って言うな!」
「あら、イケメンというのはこの早瀬さんのようなひとのことを言うのよ」
「須王さんは特別! 神! 超絶すぎるの!」
親子喧嘩に発展しそうな勢いを、棗くんが遮るように言った。
「ここで〝天の奏音〟が出てくるとは思わなかったけれど、恐らくその匂いを定期的に顔面にかけているのが原因と思われます。……あなた方が遥についての記憶を変えられているのは」
「……変えられているって……」
「確かに遥は存在していた。が、恐らく細かいところが改竄されている。調べれば疑問に思えるささやかなところでも、突き詰めて考えようとしてこなかっただけのこと。記憶の改竄は、過去を変えたわけではない。ただ辻褄合わせをしているだけなので」
「ああ。その改竄されていることに、なにかがある」
須王も、いつもの口調で続けた。
「たとえば、裕貴家族と遥家族が会った時期。それは幼稚園ではねぇんだろう。つまりそれで……遥の年齢の偽証だ」
「は、はああああ!? 遥と俺は同い年だよ、間違いなく!」
「それを証明出来るものはお前にはねぇんだよ、裕貴」
それまで黙っていたおばあちゃんが口を開いた。
「なあ、裕貴。撮った者がいないのならば、撮られてないんじゃないかい?」
「ばあちゃん、話題はとっくに進んだよ。俺も母ちゃんも、遥と撮った写真を見た記憶はあるんだって」
「んんん。だけどばあちゃん、ハルカって知らないんだよ。それは裕貴の友達なのかい?」
「ばあちゃん、また忘れたの? 俺達はばあちゃんの耄碌とは違うんだって」
「おばあさんは、遥くんや遥くんのお母さんとお会いになったことは?」
須王からピンポイントで聞かれたことに、嬉しそうにおばあさんは言った。
「ないねぇ」
「その頃、俺が幼稚園児の頃は、ばあちゃんは一緒に住んでなかったから。それにここに遥の母さん、遊びに来るんだろう?」
「ああ。お母さんはいつも二階に行ってるし、お母さんにはシュッシュしないわ、アレルギー反応がでちゃうひとだから」
裕貴くんのお母さんが言う。
「そうだ、そういえばもうまもなく、さっちゃんうちに遊びに来るわ」
途端に場に緊張が走る。