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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「ここに通して下さい」
須王が言った。
「俺達も遥くんについてお話をさせて下さい」
「いいと思うけれど……」
ピンポーン。
タイミングよく来客を告げるインターホンが鳴った。
裕貴くんのお母さんが立ち上がって、壁にあるパネルを見て言った。
「さっちゃんだわ。中に通しますよ」
「はい、お願いします」
裕貴くんのお母さんはひと言ふた言話して、ドアを開けて玄関に赴いたようだ。
遥くんのお母さん……さっちゃんに聞いてみよう。
もし須王と棗くんの仮説が正しければ、さっちゃんは意図をもって裕貴くんの家族の記憶を改竄していることになる。匂いを嗅がせてどうやるのかはわからないけれど、恐らくそれは、棗くんがAOPの解明にも繋がるかもしれない。
すべてはさっちゃんが知っているはずだ――。
裕貴くんのお母さんの声が大きくなり、二組の足音も大きくなってくる。
そしてドアが開いた瞬間、甘い匂いがリビングに漂った。
歩きながらシュッシュしているわけではないだろうし、〝さっちゃん〟自身が漂わせる匂いも、遥くんの病室で嗅いだものと酷似しているのだろうか。
それでさっちゃんは記憶を失わないということは、やはり匂いを嗅いだ後になにかしないといけないのかもしれない。さすがに嗅覚だけで記憶がなくなるとは考えにくい。
「あら、お客様?」
「ええ、ちょっと遥くんのことについて聞きたいんだって」
さっちゃんは、若々しい顔立ちで栗毛色の縦巻きをしている、華やかに整った顔立ちをしていた。
棗くんや女帝と似たような、そしてどことなくあたしの母親にも似ているような――。
カタカタカタ。
……怯えが伝わってくる。
カタカタと手を震わせているのは須王だった。
「須王?」
あたしの声で、さっちゃんがこちらを見た。
目が見開かれる。
須王は蒼白な顔で立ち上がり、こう言った。
「お袋……っ」