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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice


 お袋ってお母さんのことよね?

 え、だったら。
 遥くんのお母さんは須王のお母さんでもあるっていうことは――。

「さっちゃんおばさん、だったら須王さんと遥は兄弟ってこと!?」

 裕貴くんの家族からさっちゃんと呼ばれている女性は、恐ろしいものでも見たかのように頭を横に振りながら、後退る。

「知らない、私は知らない!」

「へぇ、捨てた子供はなかったことにしていたのか」

 須王は仮面でも張り付いたかのような面持ちで、口元だけ嘲るように吊り上げて言った。

「俺を組織に売ってお前は金を貰ったんだろう? 今度は遥を人体実験をさせた金で悠々自適生活か。はっ、これ以上ねぇってくらい鬼畜だな!」

「知らないって言っているでしょう!?」

 さっちゃんはヒステリックな声を出した。

 ……普通に考えて、アカの他人であるのなら、穏やかにかわせるはずだ。
 それは須王の勘違いなのだと、諭せるはずなのだ。

 それなのにこの真っ白な顔色。
 動揺に裏返った声。

「ねぇ、早瀬さん。勘違いではないの?」

 勘違い?
 この女性の狼狽を見ていながら、裕貴くんのお母さんは、須王の勘違いだと言えるの?

「悪いですが、お母様」

 そう冷ややかな声を出したのは棗くんだった。

「親はどんなに子供を忘れることが出来ても、子供は親を忘れられないものです。親から身勝手な、血の呪縛を受けていますので」

 棗くんから、静かな怒りを感じた。
 彼もまた、須王と似た境遇なれば、自分勝手な親に捨てられて、地獄を生きてきたのだ。

「親だって子供を忘れないわ、可愛い我が子なら」

 しかし、その地獄が存在することを知らない裕貴くんのお母さんは、一般論を口にする。

 そう、親に愛されないあたしからも、縁遠い言葉で。
 
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