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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「だとしたら、須王を知らないと言っているその女性は、須王がよほど可愛くなかったのかしら。そうでなければ、脳疾患かなにかで記憶障害が出ているのなら、今すぐ入院なさった方がよろしいんじゃ?」
「なっ!」
さっちゃんは、棗くんの毒の刃に、恐怖から怒りの表情に面持ちを変えた。
「さっちゃんおばさん、違うなら違うと須王さんにはっきりといいなよ。なに狼狽えているんだよ。傍から見たら、さっちゃんおばさん、図星さされているようだぜ?」
「裕貴くん……っ、裕貴くんからも……」
須王が苛立ったようにして叫んだ。
「ひとを頼らねぇと、自分のしでかしたこともロクに説明できねぇのかよ。そうやって我が身可愛さで、どれだけの奴が泣いて怒って、人生狂わせられてきたと思ってるんだよ!!」
「だから、私じゃないっ!!」
「お前じゃなかったら、誰だと言うんだ!!」
ここまで他人に激高する須王を見たのは初めてかもしれない。
いつもクールな王様は、過去……組織のことを語った時に感情的だった。
弟を作っている元気な母親の出現によって興奮しているのは、惨憺たる過去を持つ彼にとっての琴線だからか。
「どうせ遥の父親も適当な金持ち男を引っかけたんだろうが! 子供の存在で父親から金でも強請って、金にならなくなったら子供を闇の人身売買に売ってポイ。お前はひとの母親なんて名乗る資格はねぇよ!!」
「違うって言っているでしょう!?」
――痛い。
聞いているあたしの心ですら、さっちゃんが否定する度にこんなに心が痛むんだ。須王だったら、どれほどの痛みを刻まれているだろう。
ここは組織ではないんだ。
自由になった須王を、過去に繋がる痛みから解放してあげてよ。