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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「あなたが早瀬さんの親であろうとなかろうとどうでもいい。だって親子だというのは、あなたと早瀬さんしかわからないものでしょうから。だけど、彼女と他人である私ですら、産んだ責任を重く思ったわ。さっちゃんが遥くんを産んだというのなら、どうしてそんなに冷たい表情が出来るの?」
隣にすっと歩み出たのはおばあさんだった。
「さっちゃんとやら。戦争中は育てる食べ物がなくて子供を捨てる親はごまんとおった。生きるためにそれもひとつの選択。じゃがそうであったのならば、捨ててしまった子供に言うべき言葉はあるじゃろ。その子供のおかげでおぬしは今日まで生きてこれた。ごめんなさいが言えなくても、ありがとうぐらい言っても、バチは当たらんじゃろうて」
「私は――」
「それとも、なにも言えない事情があるのかしら」
そう言ったのは棗くんだ。
「遥を自分の子供だと言い張ることを含めて」
「え? 棗姉さん、それは……?」
しかし棗くんは裕貴くんを無視して言った。
「だからといって私はこのひとの肩は持たない。このひとは須王を捨てて、あの地獄の底に突き落とした。須王の苦しみを知る友達として言うのなら」
棗くんはさっちゃんに言った。
「Get out of here or kiss my ass.」
この中で、意味がわかったらしい須王だけが鼻で笑った。
「〝出て行け、さもなくばくたばれ〟だとさ。本当に棗はいい友達だ」
須王は切れ長の目にナイフより鋭利な光を湛えて、さっちゃんに言った。
「殺されたくなければ、さっさと出て行け。二度と裕貴の家族に近づくな」