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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「だけどあたしは、須王に少しでも……愛されていたという証が欲しくて」
ぶわりと涙が膨れあがったが、唇を噛みしめて我慢した。
「部外者が本当にごめんなさい!」
……そうあたしは、須王と棗くんのふたりの世界に踏み入ることは出来ないのだ。
少しだけ棗くんと仲良くなって、須王と付き合ったからと、なんとか出来ると思ったのは、確かにあたしの自惚れだ。
だけど、棗くんにまるで理解されなかったのは悲しくて。
ほんの少しでも、あたしも心の中に入れて欲しかった。
彼らの過去を軽んじたわけではなかった。
あたしは、部外者だ。
いつまで経っても。
「そうだ裕貴くん、お手洗い貸して貰える?」
「あ、ああ……。場所は……」
「私が案内してあげる」
そう言ったのは、裕貴くんのお母さん。
さっちゃんが消えたドアからあたしを連れて、誰からも見えなくなったところで、お母さんはあたしを抱きしめた。
「泣きなさい」
「え……」
「あなたもお母さんに愛されずに苦労してきたのね。お母さんの愛が、欲しかったのね」
「……っ」
「だから今は、お母さんだと思って泣きなさい。我慢してきたんでしょう?」
「……う、ううっ、うああああああっ」
あたしは裕貴くんのお母さんに抱き付いて、声を上げて泣いた。
ドアを閉めたとはいえ、皆にも聞こえているかもしれない。
それでもあたしは、無償で他人の子供も愛してくれる裕貴くんのお母さんの優しさに、トラウマの防波堤が壊れてしまったんだ。
「あああああああっ!」
……あたしも、須王や棗くんを理解出来ると思っていた。
あたしも同じ、母親に見捨てられた仲間だからと。