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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
 

 
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 精一杯泣いてしまったあたしは、裕貴くんのお母さんより一足遅れてリビングに入った。

 リビングには、裕貴くんのお母さんはおろか誰もいない。
 ただ、須王がソファで悠然と座っているだけだ。

 須王は長い足を組んで片手を背凭れにかけるようにゆったりと座っており、斜めからあたしを見あげて意地悪く笑う。

「一段と可愛い顔をして出てきたな」

 にやりと。

「冗談はやめて」

 キッと睨みつけた直後、あたしははっとして俯いた。

 見せられないよ、須王にこんな顔。
 どうせ化粧はハゲハゲで、赤く充血した腫れた目をしているんだろうことは自分でも容易に想像つく。
 いつも以上にぶっさいくになっている顔を、奇跡の美しさを持つ須王になぜさらさないといけないんだ。

 「ブス過ぎて辛い」とふられる前に、化粧をしてマシにさせなくては。
 こういう時、女は化粧で隠蔽出来ていいと思う。 

 だけど化粧ポーチが入っているバッグは、須王の膝の上。
 恐らく化粧をしようとしていることを見抜いているのだろう須王の、意地悪そうなのにどこか甘さを滲ませる顔は、もう本当にどんな表情でも超絶イケメンで腹立たしい。
 こう、ダンダンと地団駄を踏みたい気分だ。

「こっち見ろよ」

「嫌です」

「見ろって」

「あたし、あなたのような綺麗なお顔はしていませんので」

「俺、お前の泣き顔、好きだし。すげぇそそられる」

「悪趣味」

 バッグに手を伸ばしても、ひょいと須王がそこから遠ざける。

「ちょっと、お化粧……」

「いらねぇって。もうお前の寝顔でわかってるって。別に化粧しなくていいから、お前は。俺にはずっと素顔を見せてろよ。なにひとつ、飾らなくていい。お前は素顔もすげぇ可愛いから」

 甘い声に、胸の中が嬉しいとトクンと音をたてる。
 こんなところで、なぜ反応する、あたしの乙女心!
 
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