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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「わかるよ。須王の意志がそこになかったことは」
「ん……。そうやって、お前は俺を大事に思ってくれる。庇ってくれる。……俺がただの殺人鬼だと、疑わねぇでくれる。……俺が人間だと思ってくれる。人間でいたいと思わせてくれる」
須王の声が震えた。
「恐らく、そう思ってくれるのはお前だからだ。他には言えねぇよ。いつ誰が、汚らわしい目で俺を見るのかわからねぇから」
それは普段の須王らしくない、弱々しい声だった。
「そんなことは……っ」
「……なんでもしてきたから、生きるために。手段を選ばずに生きてきた。……動物と同じ、弱い奴を食ってきたようなものだ」
「須王……」
「棗のことは許して欲しい。あいつはまだ闇から抜け出せねぇ。俺のこの幸せを感じられねぇ。あいつにとって傍にいた俺を、お前は奪う側だ。お前に八つ当たりをしただけだ」
「許すも許さないも、悪いのはあたしなんだし」
「……そんなはずねぇだろう。誰が悪いのか、それは棗自身もわかっているはずだ。そこまであいつは、お粗末な奴じゃねぇ。とはいえ、裕貴と三芳が怒って連れ出したから、散々と棗を責めているだろうが、今回は俺は助けねぇ」
「でも……っ」
あたしが須王を見ると、須王はあたしの後頭部に大きな掌を置き、ぽんぽんと駄々っ子をあやすように優しく叩きながら、そのダークブルーの瞳を細めて柔らかく言う。
「俺が逆の立場で、お前が棗と付き合っていたのなら、俺も妬く。棗が羨ましいくてたまんねぇ。なんで棗だけが幸せなんだって思う」
「幸せって言っても、あたしは須王達のことなにも理解……」
「しようとして、お前傷ついたろう。傷ついても、俺のことを助けようとしてくれただろう。あの女に会って闇に染まった俺を、お前は引っ張り出そうとしてくれた。唾棄すべき俺の過去を変えようとしただろう。俺のために」
須王の指が、あたしの髪の毛に絡みついて、くいくいと引く。
「ありがとう。俺を助けようとしてくれて。俺の痛みに、共鳴させちまって、ごめんな。俺、お前の心を守れず、お前に守られていた」
その笑顔が、泣き出しそうなほどに切なくて。