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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
 

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 家から出て行った棗くんは、近くのお店でケーキを買って来たらしい。
 中になにが入っているのか、裕貴くんも女帝もわかっているようだったから、三人で行って棗くんがお金を出したのかもしれない。
 これはきっと、棗くんなりの「ごめんね」の仕方なのだろう。

 裕貴くんのおばさんはご機嫌で紅茶を淹れてくれ、気まずさを払拭させるような、おやつタイム。
 
 須王と目があうと、須王は笑いながらブルーベリーのムースを食べ、あたしは木苺のタルトを食べて。なんだか棗くんに悪いことをしてしまったよう気がするけれど、あたしが謝り続ける限り、棗くんもきっと居たたまれなくなるだろうからと、さっきの棗くんのお辞儀とケーキで終わりにした。

 この次は、どんなにこの美味しいケーキが食べたくなっても、ナーバスな話題をまた気軽に口にしないようにと、思いながら。

 女帝や裕貴くん、そして裕貴くんのお母さんやおばあちゃんは、さっちゃんと須王の間になにがあったのか、そして須王が過去がどんなものか、薄々とは気づいているだろう。

 それがある金持ちが出資した私兵……傭兵養成所で、須王と棗くんがどんな生き方をして、どんな辛い目にあったのかはわからないにしても。

 それでも彼らは、須王になにがあったのかと問い質さなかった。
 それは須王が苦しむことだとわかっていたから。

 彼の叫びは彼らに届いたが、さっちゃんはどうなのだろう。

 裕貴くんのお母さんの前で、さっちゃんの話をするのは憚られた。
 お母さんをこれ以上複雑な気分にさせないために、お暇させて貰うことにした。
  
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