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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「……須王さん」
一番後の席で、裕貴くんが言った。
「なんかごめん。さっちゃんおばさんと俺の家族、付き合いがあって」
彼も複雑だろう。
まさか幼なじみのお母さんが、須王のお母さんだとは思わない。
「別にいい。お前達が無事だったのなら」
「……うん、無事だ。ねぇ、考えていたんだけれど、さっちゃんが俺達をあのシュッシュでなにかしでかしていたのなら、一体俺達になんのメリットがあったんだと思う? 家こそでかいけどあれは中古で、ただ父さんの見栄のために、ローン地獄で姉貴達も毎月返済に協力しているんだ。それまでは、窓がしまらないような、もっと古くて小さな家に住んでいたんだし、うちに金なんかねぇんだよな」
「もしかすると……裕貴のお父さんが警察のお偉いさんだからじゃ?」
今日はおとなしく聞き手に回っていた、あたしの隣に座る女帝が呟いた。
「さっちゃんが持っていたというそれが、棗の言っていたAOPかどうかはわからない。だけど仮にそうだったとしたら、世界で被害を出しているそれと〝天の奏音〟は関係あって、それによってさっちゃんが裕貴の家にそれを試すメリットがあるんだとしたら……」
女帝は言葉を切ってから言った。
「やはり、裕貴のお父さんの肩書きくらいしか、思いつかないわ」
「でも父さんに直接じゃないんだぜ? 俺達にしてなんの効果があるっていうんだよ。だったら盗聴器とか仕掛け方が、脅すネタを手に入れられるのに」
「盗聴器はなかったわよ」
そう言ったのは棗くん。
「さっき調べさせて貰ったけど」
帰る間際、なにやら色々なところを物色していたと思ったけれど、また棗くん特製盗聴器発見機でも作動させていたのだろうか。
「裕貴の父親も、お前らのお袋やばあちゃんや姉貴達に弱いのか?」
「うん。もう全然。外では威張っているみたいだけれど、家の中では昔から影が薄いというか、しがない公務員というか。なんで出世できたのか、謎だよ。あ、髪も薄いけど」
……散々だ。
お父さん、きっと家族を養うために頑張って出世をしたんだろうに。