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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「それだな」
「それね」
須王と棗くんが同時に言った。
……なにが「それ」なのか、あたしのおつむではわからない。
「え、髪が薄いこと?」
裕貴くんの声を、須王は笑いながら否定した。
「宮田家の女性陣から父親を操作しやすくさせた。だが、あまり家にいないだろうに、家族を使ったのはどうかとも思うが」
「そう考えたら、遥操作の意味も強いのだろうけれど」
「警視総監を抑えながらも、メインは遥か」
どうしてこのふたりは、一を聞いて同じ十を知れるのだろう。
「そういえば棗姉さん、さっちゃんに〝遥を自分の子供だと言い張ることを含めて〟と言っただろう? 遥はさっちゃんの子供じゃないと、そう棗姉さんはそう言ったの、あの時」
そうだ。確かに棗くんはそう言った。
棗くんはたっぷりと間を取ってから、言った。
「ええ。あの女、遥は産んでいないわ、恐らくは」
「なんで言い切れるんだ?」
「子供を産んだ母親の顔をしていなかった。言わば裕貴のお母さんと正反対のところにいて、遥の話題には他人事のように表情を変えなかった」
須王の場合は、わかりやすいほど動揺したというのに。
「だから、産んではいないけれど、世間様には産んだように見せかける必要があるのだと、私は思った。その手段のひとつが、宮田家じゃないかしら」
「だけどさ、そのためにあの気味悪い宗教がなんで出てくるんだよ」
そう、記憶を曖昧にさせたのが、さっちゃんが持ってきた〝天の奏音〟で用意されたものだとしたら、遥くんとさっちゃんは、あの宗教が認知して、バックアップしていることになる。
「これは仮定だけど……」
棗くんが言った。
「天の奏音の教祖、大河原重正は誰かの手によって終身刑だったはずの身柄を、こっそりと檻の外に出されて、その誰かのために動いている。そう考えれば、さっちゃんにAOPにも似たものを渡したのは、教祖の意志は入っていないのかも知れない。教祖だけではなく、遥もまた……利用されているのだと」