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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
あたしの頭に、遥くんの声が蘇る。
――……またね、お姉サン。
あたしは、なにを忘れているのだろう。
あたしも、事実はどうであれ、遥くんを幼なじみだと信じ込ませられてきた(可能性が高い)裕貴くんやその家族のように、あの匂いでなにかを忘れさせられたのだろうか。
――次は思い出してね。
「なんでそこまでする必要があるんだよ……」
裕貴くんがぼやく。
それを言うなら牧田チーフだって、美保ちゃんだって、隆くんだって。
そこまでする必要はないように思えるんだ。
相手が一体なにをしたいのかわからない。
もしも組織を潰そうとした須王と棗くんへの報復であるのなら、こんなに多くの人達を使って回りくどいやり方をしなくても、物騒な方法で思い知らせてもいいはずだ。
「遥が、向こうにとって特殊な存在なのかもしれねぇな」
須王がぼやく。
「それをあの女が、連れて逃げたのか、売ったのかはわからないが」
「でもさ、入院しているんだよ? 別に監禁されていない状態であるのなら、あちらさんが連れにくればいいんじゃない? それくらいわかるでしょう」
あたしの言葉を、棗くんが受けて答えた。
「あそこに入院しているのが、向こうの意志だったら?」
「え、棗姉さん、どういうこと?」
「一度あのドアを開いていた時、確かに医者がなにかをしていた。だから血しぶきが飛んだ」
確かに、半透明なカーテンの奥でひとは動いていた。
「だけど二度目にドアが開いたら、それが片付けられていた。機械もなにもかも。そして遥は起きていて、見た感じどこを切ったのかわからない状態だった」
そうだ。
すぐに裕貴くんと話したんだ。
「一度目の時、確かに血の臭いがしたの。ただの切開など可愛いものではなく。もしもあそこでなんらかの〝手術〟が行われていたのだとしたら、それにしては医者達の格好がただの白衣だった。髪も普通で」
手術をする医者は、髪を隠してマスクをして、手袋をして。
そして外界の菌を遮るための清潔な服を身に纏うもの。
「つまりいつもの格好で、日常茶飯事でなにかがなされている。……遥に麻酔もしないで」
ぞくりとした。
車内の温度が、一気に五度くらい下がったような感じを覚えた。