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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
棗くんは続ける。
「それだけじゃないわ。非衛生的な環境で血が吹き出すようなことをされて、それでも遥は普通でいられる。……ううん、傷がどこだかわからないけれど、その傷を治癒出来るのかもしれない」
車の温度がさらに下がった気がする。
棗くんの推測が正しければ、それは――。
「棗姉さん、その理屈でいけば、遥は切り刻まれても死なないということ?」
「もしくは……」
棗くんの言い淀んだ言葉を、須王が淡々と受け継いだ。
「もしくは、生き返るのか」
あたしの頭の中で、最近あたしが見た天使の夢がちかちかと点滅する。
地面にあるたくさんの天使の養分から大きく育った樹に、実った天使。
天使を生かすために天使の実をもぎ取って殺した夢。
あの空間にたくさんいる天使は、あたしは……ひとりだと認識していた。
「待てよ、遥は普通の男だぜ? ちょっと身体が弱いだけの」
「裕貴の遥に対する記憶は曖昧よ。裕貴が思っている幼稚園時代の写真がない以上、さっちゃんがいつから裕貴の家に来ていたのかわからない。遥が今、本当は何歳なのかもわからない」
「棗姉さんは、遥は年上だと言いたいわけ!? 遥の顔を見て!?」
「可能性の話よ。遥が私と同い年の可能性だって、0ではない。彼の成長が止まっていたら、ありえる話よ」
棗くんが冷ややかに言う。
「それに、病院にもAOPの影響はあるはずよ。難病で17歳の少年がずっと入院していると思い込まされているのだとしたら?」
じゃあこういう可能性もある。
「遥くんは、別に難病とかで身体が悪いわけではないの?」
つまりは、周囲の……大人事情で入院させられていると。