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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 

「お、おじさん……やらねぇ。こんな生意気な目が腐ったガキを、誰が助けてやるか」

「ちょっと待って下さい、早瀬さんっ!! 助けて下さいよ、あたしが出来ることなんでもしますから」

 するとややしばらくして、早瀬がむっつりしながら裕貴くんに言った。

「……お前」

「なんだ、おじさん。俺は、宮田裕貴と名前がある」

「……では裕貴」

「呼び捨てかよ、あんた何様?」

 コメカミに青筋を浮き立たせた早瀬は、この場から去ろうとするから、慌てて止めた。

「待って下さい! 子供の戯れ言なんですから、寛大な心で!! あなた狭量な男ではないでしょう(多分)!? 裕貴くん、きみも年上に失礼よ!? 助けてくれると言ってるのに(多分)」

「このおじさんに、どんな力あるの? あんたはピアノを弾いてて音楽知っているけど、このおじさんが出来ることは、自慢のお顔で女たぶらかせて、セックスで女啼かせるぐらいじゃね?」

 くらり。

「帰「帰らないでっ!!」」

 あたしは、十七歳の悪態に眩暈を感じながらも、早瀬のコートをむんずと鷲掴む。

 離すもんか!

「裕貴くん、早瀬さんに謝る!」

「俺、イケメン嫌いだし。三芳が典型的だ」

 女帝の弟も、顔だけはいいらしい。
 その八つ当たりが、早瀬に向けられている。

「きみだってイケメンでしょ!!」

「「はああああ!?」」

 なぜか早瀬と裕貴くんが同時にあたしに疑問を投げかける。
 早瀬まで、なにその「お前の発言が信じられない」と言いたげな顔は。

「とにかく! 時間がないので!! 裕貴くん、このひとはあなたを救ってくれる(かもしれない)ひとだから、ちゃんとご挨拶」

「………」
「………」

「裕貴くん、ご挨拶出来ないと、運を逃して人生真っ暗、転落人生よ。いいの? コロコロ転がって底なし沼にドボン!」

 その説明のどこがよかったのかわからないが、裕貴くんは殊勝になってぺこりと頭を下げた。

「……よろしくおじさん」

「黙れ、クソガキ。お兄様と言え」

「オニイサマ」

「棒読み禁止。もう一度」
 
 ……助けを求めてるひとと、助けてくれると言っているひとが揃っているというのに、なんで喧嘩腰になるんだろうね。

 あたし、遠くから眺めててもいいかな。
 別に、こいつらの姉でもオカンでもないんだし。
 
 勝手にやってて?

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