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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
その時、何かの曲が流れ始めると、1フレーズも終わらぬうちに裕貴くんが反応した。
「あれだよ、俺の曲!!」
タルタロスと名付けられたバンドの出番になったらしい。
「俺が考えて、皆で一生懸命アレンジしたのに……さらにパワーアップしてる」
そう悔しげに言う。
ツインギターにベース、ドラムにシンセサイザー二台。
リズミカルに進み、サビの部分に入るとシンセサイザーのオルガンの音とストリングス(弦楽系)の音色が別のメロディーラインを奏でて華やかになる。
「すごっ」
耳に残る主旋律。
十七歳が考えたと思えぬメロディー、爽やかなAとBメロ、サビは途端に艶めかしいものとなる。想定外の曲構成とコード進行。
「あれ、裕貴くん作ったの?」
「うん。シンセとベースとドラムの旋律はあいつらが考えたけど、ギターは俺。くそっ、ギターソロもめちゃくちゃパクられてる」
歌っているのが、女帝の弟らしい。
中々に声量があって力強く、歌唱力はあるようだ。
「……あいつらよりもうまい奴連れてきたなら、あいつら使う意味ないじゃねぇか」
そう裕貴くんが言えば、目を瞑って聞いている早瀬が言う。
「向こうが脅威に思っているのはお前。ダメージを与えるために引き抜いたんだろう。もしあいつらがデビューとなれば、お前の仲間は捨てられる。圧倒的に技術不足が目立っているからな。どんな心理状況なのかは知れねぇが、あんな程度ならあれで使い捨てだ」
「……っ」
演奏は一体感があり、技術レベルは高いと思ったが、早瀬の言うとおりところどころで、僅かにリズムから乱れる音がある。
「上原、お前の感想」
突然あたしに聞かれた。
「曲も技術も歌も良いと思います。ただ……」
あたしは裕貴くんを見て言った。
「皆で頑張ろうとして作った曲のはずなのに、ボーカルだけが引き立つ構成へと変わってしまっている気がします。これなら裕貴くんが演奏しようとしていたものより、どんなに技術レベルが上がっても、なにかが物足りない。心がない、体裁だけが整ったものになっているんじゃないでしょうか」