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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「え? じゃあいらしているのかしら。遥くんについては特例の看護だから……、顔出しでもされたの? いや、だけど学会は四国だし、おかしいわね」
師長さんはなにか聞いていないか他の看護師に聞くからと、ナースステーションに行った。そこには先ほどいなかった数人の看護師がいた。
「ねぇ、今日坪内先生見えられた?」
するとふたりの看護師は、即座に頭を横に振った。
「今日は学会ということで、いらっしゃらない予定ですよ」
「そうよねぇ。この方達が、坪内先生を見たと仰られて」
すると怜悧な目を細めた須王が言った。
「坪内先生の顔がわかるもの、ありますか?」
「こっちにスタッフ一覧として写真が飾ってあるから……」
師長さんに案内された大きなボードには、看護師さんだけではなく医師の写真があった。
「ええと、坪内医師は……」
師長が表側になっている写真を見渡すと、いなかったらしい。
そこで裏側になっているたくさんの写真を手にして、一枚一枚確認していく。
「あったわ、これよ」
差し出された坪内医師の写真、それは見知らぬ男性だった。
「ええええ!? 師長さん、違うよ。顔違う!」
女帝とあたしはボードにある写真から、記憶している顔をした坪内医師を継がしたが見付からない。棗くんが裏側になっていた写真を全部見たけれど、該当写真はなかったようだ。
「もしかして……、坪内医師ではなく向こうの方じゃないかしら。容態が急変してから担当ナースと医師が数名つくことになったのよ。とても腕のいい医者達だから……」
腕組をしていた棗くんと、須王が同時に顔を見合わせた。
この美形な聡明コンビは、師長さんの言葉になにに思い至ったのか。
あたしも女帝も裕貴くんも、なにも考え及ばない。