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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
忍月コーポレーションの副社長の話を聞いてから、須王は強張った険しい顔をして、なにかを考えているようで、なにも話そうとしなかった。
「須王、大丈夫?」
あたしが須王の顔を覗き込んでいる間、棗くんは続けて師長さんに尋ねている。
「師長さんはこの病院のお勤め、長いんですか?」
「あ、はい。一番の古株ですね。ここに三十年働いています」
「でしたらその間に、この入院病棟が改装した……とかいうことはありませんでした?」
棗くんは、遥くんがHARUKAとして自由に外に出入り出来るためのものがあるかどうか、現場にいた師長さんから裏付けをとりたいんだ。
すると師長さんは頷き、懐かしそうな目をして言う。
「ええ、ええ。改装しましたとも。昔は本当に古い建物で、隙間風が吹いてきて寒くて。十三年前だから今の病棟ももう、古くなってしまいましたけどね……」
十三年前――。
「では、遥くんの病室付近に、エレベーターや階段など昇降出来るものがあったか、覚えてらっしゃいます?」
「はい、ありましたね。すべてのフロアのあの病室の奥隣に、貨物用エレベーターが。業者がそこを利用していたんですが、廃止して中央にある人間用のものと兼用になったんです」
廃止されたとはいえ、エレベーターはあったんだ。
棗くんと須王の睨んだ通りに。
「今、それが遥くんの病室内にありますか? もしくは、病室から出入り出来るところに、それらがありますか?」
あたし達はごくんと唾を飲み込んで聞く。
「確かめたことはないけれど、全フロアのエレベーターを取り払ったと聞いているから、ないと思いますね。大体病室にエレベーターがあったところで、意味がないでしょう。遥くんは寝たきりなんだし」
理屈的にはそうだろう。
普通なら、エレベーターがなぜいるのかとあたしも思う。
だからこそもし――。全フロアから取り払われるべきだったエレベーターが残存していたのだとすれば、それは作為的だ。