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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「ねぇ、師長さん。遥の前に、誰かあの病室使ってたのか?」
裕貴くんが尋ねる。
取り払われたエレベーターを、遥くんの入院中に再出させる方が無理な話。
だとすれば、残っていたエレベーターは、遥くんの前の入院者のために用意されていたものなのか――。
「あそこは、入れ替わり立ち替わり難病の人達が入院している病室なんですよ。遥くんが一番長いと聞いています」
「どれくらいの頻度で?」
「早くて数週間。長くて数ヶ月」
そう答える師長さんに、いつの間にかじっと師長さんを見つめながら聞いていた須王が質問する。
「その者達は退院出来たのか?」
師長さんは頭を横に振る。
……亡くなったのだと、そう言っているようだ。
なんだろう、ぞくりとした悪寒を感じる。
病院なのだから、亡くなってもおかしくないというのに、全員が全員亡くなることに、不穏なものを感じずにはいられない。
「その特別室に入れるのは、どういった基準なんですか?」
腕組をしながら女帝が聞く。
「坪内医師の患者さんですね。坪内医師は難病中の難病を治療している医師なので、長く経過観察が必要な患者さんが入ります。加えて、あそこは特別な部屋だから利用者は、金銭的にも余裕があるひと、ともいえるでしょうね」
しかし遥くんの場合はどうなのだ?
さっちゃんが〝裕福〟な理由は?
「特別室を利用する患者に、理事長は絡むか?」
須王が鋭利な光を目に宿す。
「はい。だいたい理事長から坪内医師に患者の紹介が来るようです」
忍月コーポレーションの副社長かつ、音楽協会の副会長の肩書きを持つ男が、病院の理事長が出来るのかどうか、詳しいところはわからないけれど、財閥関係者が病院……というよりひとりの医師を指名するのが、なにか胡乱だ。