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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
バンドは楽器のバランスも大事だと思う。
自己主張しすぎるのもよくないが、裏方に回ればバンドの意味がない。
このタルタロスのバッキングは、ボーカルの引き立て役となり、女帝の弟、三芳史人のソロリサイタルに流れる、ただのBGM化している。
それが、タルタロスで残念なところだとあたしは思うのだ。
「バンドのいいところは、相乗効果を期待出来ること。それぞれの弱点を補うことが出来ること。だけどこれは、ボーカルが他の音を打ち消している」
「……だそうだ、裕貴」
にっと口端を持ち上げるようにして、早瀬が静かに目を開いた。
「お前があいつらに勝つためには、まずお前の技術が対等以上じゃないといけねぇが、ギターテクは自信あるのか?」
「ある」
明言した裕貴くんに、早瀬は愉快そうに笑って、早瀬と頭ひとつ違う裕貴くんの肩をぽんと叩いて、超然と笑った。
「そういう奴は嫌いじゃねぇよ。身の程知らずの馬鹿でなければいいが」
「馬鹿で終わらせないよ」
「だったら俺の指示通りに動け。とにかく時間がねぇから、『なんで』とか『嫌だ』は、なしで。その代わり、あいつらの曲に勝たせてやる」
「はあ!? なに、その自信」
まあ、そう言い切れるだけの実力は早瀬にはあるからね。
「お前がギターテクに自信があると言うくらいの自信はある」
この余裕顔。
絶対見つけたんだ、必勝法。
「だけど……」
「男に二言はねぇ。とにかく時間がなさすぎる」
そう眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせると、電源をつけたスマホでどこかに連絡をし始めた。
「あのおじさん、何者?」
すると電話をしている早瀬が裕貴くんの頭に拳骨を落とす。
「いて……っ、このオニイサマ何者!?」
「何者だろうね。ところで裕貴くんは、なんで音楽やろうとしたの?」
「……病院に入院している俺の幼なじみの男が、音楽が好きで。俺、よくギターを弾いてやってたら喜んでたんだ。今、病気が悪化して面会謝絶になってさ。でもテレビは見ているだろうから、せめてテレビから応援したいなって……あの曲の歌詞も、励ましだったのにさ。意図、変わっちゃってるし」
音楽とは人間の感情を投射する。
どんなに素晴らしい曲でも、伝える人間の心が黒く染まっていたら、澱んだ音楽になるし、その逆も然り。
だとすれば――。