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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
 

「わからねぇ。長谷に探っては貰っているが、〝天の奏音〟は芸能界にも進出しているからな。ゼロではねぇだろう。そのクチで、信者寄せに長谷に回ってきたんだろう」

「長谷さんに探らせてるって、そこまで仲良しだったって、須王」

 そういえば、エリュシオンにも長谷耀は現われたことを思い出す。

「いいや。あいつ、移籍問題抱えていて、干されかけていた。それを解決する見返りに、仕事をやらせた」

「は? 仕事って……」

「なに、あいつが得意な電子音でのアレンジを任せただけだ。俺、どうもあの歪んだ機械の音は好きじゃねぇんだ。先方には、長谷耀との合同アレンジということで話したら、喜んでいた」

 いつの間に。
 だけど須王が抱える仕事は大量で、今も彼は寝る間も惜しんで仕事をしている。それはまぁ、あたしに構っているから時間がないと言えばそうではあるんだけれど、彼曰く音楽の神様は夜中に突然降ってくるらしい。

 そんな彼はエレクトリック音楽は作ったことがない。
 シンセサイザーやギターやベースのエフェクターの音色を使っているから、大して差はないと思うけれども、須王にしてみれば音楽の芯までも、無機質的な電子音に侵されたくないらしい。

 彼の基本は、あたしが教えたクラシックなのだ。
 だから彼はオーケストラも使うなどして、出来る限りひとが楽器を生演奏する温もりあるバッキングで、音楽を多く作っている。

 そこが、すべてをコンピューターで作る長谷耀を嫌う原因のひとつだろうと、あたしは思う。
 要するに、音楽のセンスが合わないのだ。

「長谷さんの移籍問題の解決って……」

 須王は電話をかけながら笑って言った。

「ああ、瀬田さんの力を借りたのさ。瀬田さんの力はシンフォニアの上層部も頭を下げるから。それで来月からめでたくエリュシオンに移籍。ま、一時的だが、エリュシオンの宣伝に使う。今月まではシンフォニアにいるがな」

「エリュシオンに来るの!?」

「ああ。社長には通してある」

 エリュシオンに早瀬須王と長谷耀が在籍するの!?
 
 というより宣伝って……。
 確かにエリュシオンは再生中だけれど。
 二枚看板があると、非常に嬉しいことだけれど。

 須王ってば、いつから営業もしていたの!? 
 
 ……エリュシオンを考えてくれていることが、とても嬉しい。
 
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