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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
驚くあたしの肩を、裕貴くんがぽんぽんと叩く。
「柚、長谷耀ってあの長谷耀?」
「裕貴くんの言っている長谷耀がどの長谷耀かわからないけど、多分その長谷耀よ」
鼻息荒い裕貴くんに、あたしも鼻息荒く答えると、裕貴くんは驚愕の表情をした。
「ふへぇ! そりゃあ須王さんがいるんだから、長谷耀も身近にいてもおかしくないけど、うわー、なに!? 柚、そんな世界で生きているわけ!?」
「別にあたしだけじゃないけど……」
女帝を見ると、女帝が勝ち誇ったようにして言った。
「そうよ、裕貴。私も柚も、あんたなんか手が届かない有名な音楽家のいる世界で仕事をしているのよ!」
「お見逸れ致しました!」
若者とは思えない言葉で頭を下げる裕貴くんを見て、あたしと女帝と顔を見合わせて大笑いをした。
「だけどさ、長谷耀って言ったら、コンピューターミュージックの第一人者じゃないか。音の魔術師って言われる、あの長谷耀……」
なにやら感慨深くそう呟く裕貴くんの額に、電話を耳にあてている須王が、その長い指でデコピンをする。
「痛っ」
「裕貴、師弟関係解消か?」
「い、いえいえ! 須王さんはその上を行くの、わかってるし! 俺、元々須王さんのファンなんだしさ」
裕貴くんは両手を重ねて、にぎにぎと揉手。
本当にこの子、本当に高校生なのかしら。
だけどまあ、宮田家は年齢層が高いから、その中で相談役で育った彼の精神年齢も、高いのかもしれない。
すると須王は口端を吊り上げて裕貴くんに笑ってみせた。
「あ、長谷か? 早瀬だ」
裕貴くんは大興奮。
「ああ、……そうか、地方にいるのか。いや、いい。仕事中悪かったな」
どうやら空振りに終わったらしい。裕貴くんは二大音楽家を見れると期待していたようで、少し残念そうだった。