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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
 
 
 そんなことを思いながら、エリュシオンより広く綺麗なフロアに入った。

「いらっしゃいませ、瀬田様。社長室にて社長がお待ちしております。九階までエレベーターでお上がり下さい」

 瀬田さんは顔パスで、お揃いの制服を着た三人の受付嬢に、にこやかに挨拶をされている。
 
 そしてアポを取っていない須王を見て、受付嬢達の瀬田さんに向けていた作った笑顔が、わかりやすいほど欲望をただ漏れにして、にやけるようにして緩む様を、あたしはじっくりと見た。
 当の本人はいつもながらの反応に、動じることはなく。

「ああ、彼らは私の友人だ。是非社長に紹介したくてね。早瀬くんはわかるね。皆早瀬くんの部下だ」

 須王以外、部下という一括りにされてしまった棗くんも女帝も、営業用スマイルが眩しいこと。

 たとえ最大手に勤めていようと、彼女達受付嬢には太刀打ちできない余裕と主役級の美しさに、見慣れているあたしまでくらくらしてしまうが、さすがは教育された受付嬢、この美しさに白旗をあげるどころか、敵意にも似た笑みを向けてくる。

「いらっしゃいませ」

 そしてちらりと裕貴くんを見て、心なしかまた欲望が漏れ始めたが、なぜか最後のあたしを見て、嘲るような薄ら笑いが顔に浮かんだ。

 あたしには、華という美しさがないのはわかってはいたけれど!
 そんなに明らかに、態度を変えなくてもいいじゃない!

 ぷりぷりしながら最後尾についたあたしは、皆と同じエレベーターに乗った。

「それで棗達は、シンフォニアでなにを聞きたいのかね?」

「HARUKAというインディーズの歌手についてですわ」

 すると、瀬田さんは僅かに目を細めた。
 
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