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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
 

「どうしてシンフォニアで?」

「HARUKAの情報をどこよりも仕入れていると思うので」

 今度は須王が答えた。

「なぜそこまでHARUKAという少年を気にするんだ? エリュシオンでデビューをさせたいと? それとも早瀬くんが鍛えたいと?」

「俺が鍛えたいのはこの裕貴だけなんですが、あまりにも人気だというので、どんな少年か確認したいと思いまして」

 須王が鍛えたいと口にした、裕貴くんは嬉しそうだ。

「しかし瀬田さんもご存知だったので?」
「やはり父さんの耳にも入るくらいの子なのかしら」

 突然の須王と棗くんの言葉に、あたしはびっくりした。
 女帝と裕貴くんも驚いた顔をしている。

 だって、今の瀬田さんとの会話で、どこに〝瀬田さんも知っている〟という情報があった?

「なぜそう言い切れる?」

 瀬田さんは訝しげにふたりに返す。

「HARUKAという名前だけを聞いて、少年だと断定出来たことです」

「ええ。私は、インディーズの歌手としか言ってなかったわ」

――どうしてシンフォニアで?

――HARUKAの情報をどこよりも仕入れていると思うので。

――なぜそこまでHARUKAという少年を気にするんだ? 


 あ……。
 同じ会話を聞いているのに、どうしてあたしはすぐ気づけないのだろう。

「ふむ。実は……話は聞いている」

 瀬田さんは言った。

「小柄で華奢な身体で、世界に通用するソプラニスタの声帯を持ち、天使の声が出せるという奇跡の少年だと。公園で歌っているところをネットで話題になり、どのプロダクションもノーマークだっただけに、こぞって引き抜こうとしているのに、捕まえたと思ったら忽然と消えてしまい、話を進めることが出来ないと」

 忽然と消える――それは、HARUKAが遥くんだとしたら、歌を歌ってすぐ病院に戻るのを、誰も追いかけられないゆえの表現なのだろうか。

 上野公園で見た時のように、空に飛んでしまうかと思うくらいに軽やかに地面を跳ね、さながら両翼を羽ばたかせる天使のように、人混みから消えていったのだろうか。
 
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