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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
 

「瀬田さんのところに、HARUKAの素性の情報は行ってますか?」

「いや、そこまでは。それならシンフォニアの社長の方が情報が入っているだろう。……さあ、着いた」

 チン!と音がしてエレベーターのドアが開くと、下の受付嬢と同じ制服を着た、初めて見る顔の上品そうな美しい女性が出迎えた。

「いらっしゃいませ、瀬田さま、そして皆さま。下より連絡は受けています。私は社長秘書の品田と申します。社長室にご案内致しますので、こちらへどうぞ」

 細い腰に、タイトスカートから輪郭がわかる大きなお尻を左右に揺らす様は圧巻で、健全な高校生である裕貴くんは赤い顔をして目をそらしているが、健全な音楽家である須王は見向きもしていないようで、ほっとした。

 そんなあたしの様子をこっそりと見ていたらしく、歩調を遅らせた須王があたしの隣に並ぶと、少し身を屈めるようにして耳元に囁く。

「目移りしないか、心配だった?」

「……っ!!」

 ……どうしてこの男は鋭いのだろう。
 わかっているなら、わざわざ聞きに来なくてもいいから!

「べ、別に……」

 そしてあたしは、須王の慧眼に敵わないことを十分にわかっているはずなのに、空惚けてあさっての方を向くが、その頬を片手で掴んだ須王は、あたしの顔を須王の正面に戻す。

「安心しろ。お前の輪郭の方がそそるから」

 流し目つきの不意打ち。

「なっ!」

 これでも声は抑え、代わりにこんな場所で冗談はやめろと目を吊り上げれば、須王はさらに小さなひそひそ声で尋ねてきた。

「お前、忘れてねぇよな。今日のブルームーン、スタジオの俺の部屋で月を見ながら過ごすっていうこと」

「あ、忘れてた……」

「お前っ」

「嘘だって。覚えてるよ」

 遥くんのことで、忘れかけただけだって言おうとしてやめておく。
 
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