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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
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シンフォニア社長は、瀬田さんよりも少し年下くらいの見知った顔だった。
通称ナダマンこと名高満は、テレビに出てとにかくよく喋る、名物社長。
ナダマンが有名すぎて、ナダマンがどこの社長だったのかを忘れるなんて、音楽業界に勤める者としては、あるまじきこと。
あってないようだった名刺を取り出して、須王達と共に頭を下げて渡すと、瀬田さんにも欲しがられた。綺麗(だと思われる)な名刺を一枚渡すと喜んでくれたが、あたしの苗字を見ても特別に表情を崩すことがなかったのは、元友達の家族だと気づかなかったからだろう。
まあ、上原なんていう姓はどこにでもあるからね。
名刺がない未成年の裕貴くんに関しては、須王は名前も伏せた上で、弟子だと笑うに留め、恐らくは才能ある裕貴くんをシンフォニアの横槍で失いたくなかったのだろう……早瀬須王の弟子宣言は、逆にナダマンに興味を持たせてしまったようだ。
「ははは。彼の名前はデビューした時に」
……ナダマン以外は、知っているけどね。
「それは楽しみにしているよ。ナナシの少年」
裕貴くんはナナシと呼ばれることになって、複雑そうだ。
ナダマンと須王と瀬田さんと、音楽業界で名だたる人達が顔を合わせるその様は、写メにして出版社に送りつけたいほど、ビッグで貴重な場面だろう。
音楽界で有名になるのは、親の肩書きではなく、自分の力。
棗くんを除いて、須王と同じ音楽の世界に居るはずのあたし達は、その圧倒的な三人のオーラに完全に影となり、場違いな居心地の悪さを感じている。