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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「お前、歌え」
電話を切った早瀬が言う。
あたしも、それを思った。
裕貴くんが歌ってこそ、この曲に込められた情熱的なメッセージは聞く者に届けられる。タルタロスの女帝の弟は、他人事だからそれが出来ない。
「は? 俺、ギターで……」
「伝えたい言葉があるのなら、お前が歌え。それとも歌いながらのギターは出来ねぇわけ? そんな程度だったんだ、お前のギター」
「違う、歌いながらなんて朝飯前! 元々は歌いながらギター弾いてたし」
「だったら、決定な。それに喜べ、このコンテストにはテレビ中継車が来ている。お前の歌声がきっとテレビを通じてそいつに届く。見ていれば、だけど」
途端に裕貴くんの顔が青くなった。
「テレビ中継……こんなに早く……やべ、緊張してきた……」
「裕貴くんを沈めてどうするんですか! さあ、作戦会議を……」
「なぁ上原。お前、俺に助けを求めて、なんでもするって言ったよな?」
――助けて下さいよ、あたしが出来ることなんでもしますから。
ちょっと嫌な予感に、叫んだ言葉を後悔しながら、一歩退いて頷く。
「い、言いましたけど……」
「だったら、たっぷりと働いて貰わねぇとな」
一歩近づいた早瀬が、魅惑的な笑いであたしに圧をかける。
「覚悟はいいか?」
上から覗き込むようにするから、あたしの上体は思い切り仰け反った。
しかし早瀬の顔が近づいてくるため、あたしの背筋が悲鳴を上げた。
そしてそのまま裕貴くんを見る。
「裕貴くん、た、助け……」
しかし意外に純朴な少年は、真っ赤になって見ているだけだ。
「ゆ、裕貴くん……」
お姉さんを犠牲にするの?
「……なあ、お前が助けを求める相手、違うんじゃね? ん?」
こんな、裕貴くんが見ている前で、早瀬は黒い笑みを浮かべて、あたしの顎に手を添えた。
ひ、ひぃぃぃぃ……。
「横浜市街地から、シンセら楽器受け取ってこい」