この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
「HARUKAは歌だけを歌うんですか? なにか手品じみた余興をしたりとかは?」
裕貴くんは、前座があると言っていた。
「なんでもピエロに前座をさせるようですが」
ビンゴ。
あたしの脳裏に上野公園のことが思い出される。
「それはどんな手品です? 例えば、頭を切り落としたりとか、悪趣味満載だったりします?」
棗くんの言葉に、ナダマンと瀬田さんは同時に笑う。
つまりは、そんな事実はないということだ。
となれば、あたし達がいたあの時だけ、あたしの天使の記憶に触れる余興をしたということだ。
なぜ?
――またね、お姉サン。
「しかし逃げられても素性くらいは、イベントの方に問い合わせるなりすれば、申込時の住所や名前ぐらいはわかりませんか?」
今度は女帝が尋ねた。
「それがその住所に行っても、いないんだ。張ってもね」
「どこの住所なんですか?」
須王の執拗な質問に、ナダマンは言った。
「住所は……」
その住所は――。
「苗字はミヤタ、ミヤタユウキが本名で、芸名をHARUKAで登録している」
「それ、俺ですよ!」
裕貴くんが立ち上がり、ズボンのお尻のポケットに入れていた、二つ折り黒財布の中から、カード式の証明写真つき学生証を取りだして見せた。
「前に母さんやばあちゃんが、俺が授業をサボッて公園で歌を歌っていたと言い張る、怪しげな男達がいると言っていたことがある。そんなことをしているのかと怒られて。学校を休んでいないとわかったら、相変わらず来る男達に俺のアルバムごと写真と、父さんのことを言って、ようやく引いてくれたと」
いつも見ているはずのHARUKAの顔と裕貴くんとは違い、さらに裕貴くんのお父さんが警察のトップだと知ったら、さぞや慌てて逃げ帰っただろう。
しかし――。
AOPらしきもので、さっちゃんは宮田家に取り入った。
そして息子のHARUKAくんは、その宮田家の仲がいい幼なじみを騙った。
これはどういうこと?
遥くんはいつも病院にいることを隠すために、裕貴くんの住所と名前を使ったの?
でもさっちゃんが今も住んでいる家に、住んでいたんだよね?
実名を隠したいから、裕貴くん情報を拝借したのか。
それとも――。
裕貴くん情報を利用したいから、裕貴くんに近づいたのか。