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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
 

「HARUKAは歌だけを歌うんですか? なにか手品じみた余興をしたりとかは?」

 裕貴くんは、前座があると言っていた。

「なんでもピエロに前座をさせるようですが」

 ビンゴ。
 あたしの脳裏に上野公園のことが思い出される。

「それはどんな手品です? 例えば、頭を切り落としたりとか、悪趣味満載だったりします?」

 棗くんの言葉に、ナダマンと瀬田さんは同時に笑う。
 つまりは、そんな事実はないということだ。

 となれば、あたし達がいたあの時だけ、あたしの天使の記憶に触れる余興をしたということだ。

 なぜ?

――またね、お姉サン。

「しかし逃げられても素性くらいは、イベントの方に問い合わせるなりすれば、申込時の住所や名前ぐらいはわかりませんか?」

 今度は女帝が尋ねた。

「それがその住所に行っても、いないんだ。張ってもね」

「どこの住所なんですか?」

 須王の執拗な質問に、ナダマンは言った。

「住所は……」

 その住所は――。

「苗字はミヤタ、ミヤタユウキが本名で、芸名をHARUKAで登録している」

「それ、俺ですよ!」

 裕貴くんが立ち上がり、ズボンのお尻のポケットに入れていた、二つ折り黒財布の中から、カード式の証明写真つき学生証を取りだして見せた。

「前に母さんやばあちゃんが、俺が授業をサボッて公園で歌を歌っていたと言い張る、怪しげな男達がいると言っていたことがある。そんなことをしているのかと怒られて。学校を休んでいないとわかったら、相変わらず来る男達に俺のアルバムごと写真と、父さんのことを言って、ようやく引いてくれたと」

 いつも見ているはずのHARUKAの顔と裕貴くんとは違い、さらに裕貴くんのお父さんが警察のトップだと知ったら、さぞや慌てて逃げ帰っただろう。

 しかし――。

 AOPらしきもので、さっちゃんは宮田家に取り入った。
 そして息子のHARUKAくんは、その宮田家の仲がいい幼なじみを騙った。

 これはどういうこと?
 
 遥くんはいつも病院にいることを隠すために、裕貴くんの住所と名前を使ったの? 
 でもさっちゃんが今も住んでいる家に、住んでいたんだよね?

 実名を隠したいから、裕貴くん情報を拝借したのか。

 それとも――。

 裕貴くん情報を利用したいから、裕貴くんに近づいたのか。
 
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