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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「へ、へ?」
「知り合いの横浜のスタジオに話をつけた。だが忙しくてここに来れないという。だからお前が受け取って来い」
「う、受け取るって、で、電車で? 交通機関どうやって……」
初めての土地に不安になって聞くと、早瀬はふふふと笑った。
「俺の車を特別に運転させてやる、ナビもついてるしな」
「へ、へぇぇぇ!?」
早瀬の車!?
あの一千万以上もする車を運転しろですと!?
「ただし。俺の車傷つけたら、借金が増えることだけは心しろよ?」
「や、やだっ、やだ!!」
あたしは涙目で頭を横に振って拒絶をする。
悪魔の乗り物なんて怖いもの、あたし運転出来ない。
大体あたしが運転したのは、六年前に一度、免許取り立ての時に亜貴の車を貸して貰って、近所の一本道をそろそろと動かしたくらいなのだ。
「やだ? ……ほぅ? お前、なんでもするといったよな? いいのか、俺このまま帰っても。お前、裕貴が汚いやり方に屈する様を見たいのか」
早瀬がどこから聞いていたのかわからないけれど、協力を申し出たのは、早瀬なりに、純粋な少年の音楽の夢を奪う汚いやり方に、思うところがあったのだろう。
それはわかるけれども、だからなんであたしが彼の高級車を運転しないといけないの。
「じゃあタクシーで……」
「住所はナビについてる。俺の口からは言えねぇ」
ぷいと横を向いてしまう。
「~~~っ、あなたが行けばいいじゃないっ」
「俺は忙しいんだ、これから編曲とこいつの腕を見ねぇといけない。俺がシンセ受け取る間、お前あいつのギターで俺の代わりにアレンジ終えれるか!?」
「い、いいえ……」
早瀬は閃き型の天才だ。
素早く最適な音を作ることが出来るのが武器。
それじゃなくても時間制限あるのに、そんな神業あたしが出来るわけがない。