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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
須王の部屋には何度も行っているけれど、こうして改めてあたしから須王の部屋を訪ねていくのは、なぜか緊張する。
両想いになっても尚、ドアを開けたら彼の姿はないんじゃないかと、そんな不安が過ぎるんだ。
この九年あたしの傍にいなかった須王が現実で、実はあたしは夢を見ているのではないかと。……須王から愛されるということは、あたしの願望でしかないのだと。
ノックをしようとする右手が、ドアの前で止まっている。
そしてあたしは深呼吸をして、ノックをしてドアを開けた。
すると――。
「わっ!!」
突然中から腕を引かれて前方に倒れそうになるあたしは、甘いベリームスクの匂いに包まれる。
「……なんで躊躇した?」
「え?」
「ドアの前に立ったまま、なぜすぐ入って来ようとしなかった?」
切なそうな須王の声が囁かれて。
「いまだお前の中に、俺に対するストッパーがあるの?」
……彼はドアがあろうと壁があろうと、あたしの気配を感じ取れるのか。
部屋の中は薄暗く、奥に一面に広がる窓にはカーテンが掛かっておらず、空を見上げられるように、窓の前には背凭れつきの椅子がふたつ並んでおかれている。
「ブルームーン、一緒に見たくなかった?」
……雨が降っていた。
ブルームーンに願いをかけようとする、須王の期待を裏切るかのような強い雨が。
心を寂しくさせてしまう、そんな雨が。