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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
 

「違うの。こうやって須王の部屋に気軽に行けるのが、夢だったらどうしようと思っちゃって。現実は須王がいなくなったままだったらどうしようって」

「まだ……不安か?」

 薄闇の部屋に響く、苦しげな声。
 あたしに尋ねる須王の方も、不安なのだ。

「ううん、安心した。この手の温もりが、こっちの方が現実だよって教えてくれるから」

 あたしは須王の手を取り、両手でその掌に頬をあてて目をそっと閉じる。

 静謐の中であたしの中に動く〝好き〟が大きくなってくる。

 大丈夫。
 あたしは間違えない。

「須王……好きだよ」
 
 そう微笑むと、須王が泣き出しそうな顔で笑い、身を屈めるようにして、少し冷たいその唇で、あたしの唇に触れるだけのキスをした。
 そしてあたしの顔を彼の胸に押しつけながら、あたしをぎゅっと抱きしめ、あたしの頭の上で頬を擦りつける。

「不安にさせてすまない。……不安になってすまない」

 彼はどんな気持ちで、ブルームーンに思いを馳せて、この薄暗い部屋の中であたしを待っていたのだろう。

 もしかすると、彼の色々な過去を思い出してしまったのではないか。
 今日、再会したお母さんに拒絶されたことも。

 そして恐らくは、追い打ちのようなブルームーンをかき消す雨と、あたしの自分勝手な不安が、彼にとってすべて否定されたように思ってしまったのだろう。

 彼の望みは、絶対に叶うことはないと――。

 彼は決して強くない。
 強くあろうとしているだけだ。
 心はきっと……、愛に飢えた幼子のように、迷子になっている。

 ……そう思うと、彼を縛る闇の存在に、泣けてきた。

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