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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
  

「だったら、早く行け。これキー」

 あたしの目の前でぽたりと床に落ちる、高級外車の鍵。

 ひ、ひぃぃぃぃっ。

「早く帰って来れたら、ご褒美をやる。いいな?」

 引き攣るあたしに、突然に妖艶な笑いを見せるハデス様。
 そこに感じる匂い立つ色香は、今なんでこんな場面で出て来るのかよくわからない。

「い、いらない……」

「たまには欲しがれよっ!!」

 なぜか早瀬は声を荒げた。

 なんなの、このひと。
 どこがお怒りポイント?

 怖いよ、このひと怖い。

「上原、ダッシュ!!」

「~っ」

 嫌です、とっても嫌なんです。

「ねぇ、おじさん」

「お兄様だろ、クソガキ」

「オニイサマ、横浜の往復までに、二年かけて出来上がった俺の曲、本気にアレンジ出来ると思ってる?」

 ちょっと不機嫌そうな、オリジナルを作った裕貴くん。

 そうだ、そのままハデスをKOして頂戴。

「ああ、出来る。この女が走り回って、無駄ない動きをすればだがな。すべてはこのオネエサマ次第だ」

 あ、あたしに振る!?

「オネエサマが早く帰ってきてもアレンジ出来なかったら、お前に好きなイコライザー五つ買ってやる。どうだ?」

「ヨロシクオネガイシマス。オネエサマ、ガンバッテ」

 目を泳がせながら、棒読みする裕貴くん。

 今日の友は今日の敵だ!!


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 早瀬にナビの使い方を聞いたとおりセットすると、『小林スタジオ』と出て、「一般道を通るルートです」などと、怖いことを言った。

「せ、せめて車が通らない道はありませんかね?」

 聞いてみても、ただのナビには返答がない。

 あたし、車一杯の道路を通らないといけないの!?

 運転席に乗り込んだだけで、貧血で気が遠くなりそうだ。
 エンジンをかけただけで、ぶわりと全身の毛穴が開ききった。

 これから、どうする?

「死ぬ……」

 これも人助けだと、柚ちゃん頑張れと声に出して自分を励まし、ちょっとアクセル踏んでみると、ヴォンと思った以上に走り出した。慌ててブレーキを踏むと後ろから来ていた車にぶつかりそうになり、鼻水まで出てくる。

「死んじゃう……」

 ナビは簡単に進路をガイドしているけれど、そこに行き着ける自信がない。
 駐車場を走るのが精一杯だ。
 
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