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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
――挑戦したい。音楽やりたい。
――助けてやろうか。
せっかく、他に無関心な早瀬が出した仏心。
あたしだって、音楽を馬鹿にするなとタルタロスの連中に思い知らせてやりたい。
早瀬がどう力になろうとしているのかはわからない。
だけど早瀬だから。
あたしが尊敬出来る音楽センスを持つ早瀬だから。
この世で今一番必要なのは、早瀬須王の力だから。
「あの鬼畜魔王っ!! 絶対、生きて帰って来るんだから!」
初めてのおつかい、スタート。
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「ねぇ、お……ニイサマ。大丈夫かな、柚が運転する車ってあれだよね? 車は格好いいのに、ああ、危なっ。俺、絶対あの車の助手席に座りたくない」
「誰が乗せるか」
「ははは、ねぇあんた、車はあんたの一部だと見なすクチだから、柚だけを乗せてたんだろう?」
「名前を呼び捨てにするな」
「言えばいいじゃん、柚に。『お前が好きで信じているから、特別に運転もさせてやる』って」
「……っ、ゲホッ、お前、どうして」
「今更だって。あんた、柚を落とせないくせに、相当深くまで柚に落ちてるよな? 深みにはまって動けてなくね?」
「ゲホッ、ゲホゲホっ」
「今だって、どうせ崖から突き落として、めっちゃ心細く不安にさせておいて、後でベッドでよしよしと甘やかすつもりなんだろう。やだなあ、不器用なおじさんの考えることは。せこくてエロくて。せめて十七歳が見抜けない口説き方考えろよ」
「ゲホゲホゲホゲホ」
「ちょっと、図星指されたからって咳き込みすぎ。ダサいよ?……って、俺のギター窓から投げるなっ、ふぅふぅ、よかった間に合って」
「クソガキ」
「な、何だよ……」
「ギターパート大幅変更だ」
「いつ作った!?」
「今。お前がほざいている間に。聞いて覚えるか? それとも譜面が必要か」
「譜面があれば尚良いけど……」
「だったらあいつの帰りを待て。耳で先に覚えろ。貸せ」
「え……あ……は……へ!? な、あんた、ギターリストだったの!?」
「そんなわけねぇだろ。ただの一般人だ」
「嘘だ!!」
などと、一室で二人組が騒いでいるのも知らず、あたしは――。
「あの鬼畜っ、なにが横浜市街地よ!!」
ナビが到着地点を示す、車で三分もかからぬご近所さんで叫んだ。