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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice

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 今日は音楽の完成度を上げようという目標に向けて、須王が鬼教官となり、朝からびっしりと音楽のお稽古。

 よたよた動くあたしは、皆に後ろ指をさされて笑われながらも、忍者のように気配を殺し(ているつもり)、女帝と懸命に須王のスタジオのお掃除をしている。

 たかが音楽と思うこと勿れ。

 須王が指揮する音楽の稽古はかなりハードで、本調子ではない小林さん以外の演者……裕貴くんと棗くんからは汗が流れ、女帝が用意したタオルで汗を拭う様などは、まるで体育会系の合宿のようだ。

「俺、なにかコンビニから冷たいもん買ってくるわ」

 小林さんが申し訳なさそうに、店に調達に行くと名乗り出た。
 
「あ、それなら私もいいかしら。小麦粉とか欲しいのよね~」

 女帝がついていくのは、小林さんがまた完全復活していないからの付き添いだ。そういう機転は、さすがだと思う。

 そしてふたりがいなくなり、応接室にて最若手がへばり、棗くんは涼しい顔をして、ノート型パソコンでお仕事。

 そんな彼らに、アイスティーをよたよたと出したあたしを、王様椅子で偉そうな王様座りをしていた須王は、にこにこ……いや、にやにやと見ていたが、あたしは無視をする。

 ここは見ざる、聞かざる、言わざるで行こうと決めたあたしに、裕貴くんの手を引っ張りながら、わざとらしい須王の声が響く。

「なあ裕貴。柚さ、昨日より色っぽくなっただろう? 後学のために教えてやるよ。女は前も後ろも愛してやれば……」

「前? 後ろ?」

「なに未成年におかしなことを言っているのよ、この変態!! 後ろは No thank you!」

 ……三猿に徹しきれなかったあたしは、色々と考え込んでいる純な裕貴くんを須王から引き剥がした。

「くくくく」

 なにがおかしいのかしら。
 この王様は本当に意地悪なのに、あたしから精気を吸い取ったかのように、今朝また一段と若々しくお美しいのが腹が立つ。
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