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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
棗くんが追うAOPで、なにか記憶操作がなされたり、遥くんのように血の臭いを消されたりしたのだろうか。
決して気を許せない、この甘い香り漂う家の中に、不届き者がまだいるかもしれないと、目を光らせる棗くんは太股に手を添え、須王はジャケットの内側に手を入れてあたりを伺っている。
そこになにが入っているのかなど、野暮なことは聞かない。
銃かも知れないしナイフのような武器かもしれない。
問題なのはそこではなく、彼らがいまだそれらを手にしなければいけない状況だということで、中に入ろうとした裕貴くんの襟首を掴んだ須王の頷きで、棗くんがその長いおみ足でリビングへのドアを蹴り飛ばす。
しかしそこには誰もおらず、勿論カーペットの上に不審なものもない。
前にお邪魔した時と同じ、整然としたリビングで、それが一層不気味に思えたらしい裕貴くんは、悲痛さを滲ませる声で家族を呼ぶ。
「母さん、ばあちゃん!?」
――その時、物音がした。
息を飲む中、音はリビングに近づいてくる。
あたしと裕貴くんは須王と棗くんの後ろに立たせられ、ふたりの空気が最高に鋭くなったところで、棗くんのスカートが捲り上げられ、ガータベルトにあるかなり小型の銃を、須王は折りたたみ式のごついアーミーナイフを取り出し、片手で開いて横に持った。
そして現われた人物の頭に、ふたりが両側から武器を突きつけた。
それは――。
「姉貴!?」
白いシルクのパジャマ姿の髪の長い女性で、目の前にある物騒なものを見て仰け反った。
イケメン裕貴くんのお姉さんは、どこか裕貴くんの雰囲気を持ちながら、やはり整った顔立ちをしている美女だった。
「なに、なによこれ」
あたしと同い年のはずだが、漂う色香が違う。