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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
  
「その時、なにか音楽を流してましたか?」

 須王の問いに、ぽっとなりながらお姉さんは答える。

「そんなものはなにも。だけど……外で、音楽をガンガン鳴らした車が停まっていたので。迷惑車ですよ」

 棗くんが神妙な顔をして尋ねた。

「その音楽って覚えてますか?」

「え、それは記憶ないです。初めて聞くもので」

 途端、須王が静かに口ずさむ。
 彼の記憶にあり、電話口から流れていた曲を。

 だけどあれ?
 こんな曲だったっけ?

 一度聞いたら忘れないあたしだけれど、記憶が曖昧なのは柘榴の香りのせいだろうか。

「ああ、それです、それ」

 お姉さんは即座に肯定した。
 音楽に素人のお姉さんが覚えることが出来て、あたしに覚えられないというのはなんとも情けない。

「なんですか、早瀬さんの曲なんですか?」

 ……有名でもない、マイナーすぎるそんな曲を流している車がいたというのなら、それは意図的だろう。

 それは、わざわざあたし達に聞かせるために用意した車だったのだろうか。

 そしてそれをさっちゃんが指摘したことと、そして逆探知がこの家を示したところを思えば、やはりさっちゃんの仕業だとしか思えない。

 でもどうしてあたしのスマホに?

 その時、あたしの脳裏にふっと過去の記憶が横切った。

「あ……」

「どうしたんだ、柚?」

 心配そうな裕貴くんの声を受けながら、あたしは言った。

「あたし、さっちゃんに名刺を渡していたんだ……」

 そう、あたしの携帯に電話して下さいと付け加えて。
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