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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
 

 ありえない最悪の事態に慌て、震え上がるあたしと裕貴くんの前で、棗くんの冷淡にも聞こえる流暢な英語が響く。

「DEAD OR ALIVE?」

 あたしの中にある小さな翻訳機能が、これ以上ないくらいの速さで和訳した。

 〝死ぬか、生きるか?〟

 カチャリとセーフティロックが外される音がする。

 やばい。
 これは史上最悪のやばさだ。

「棗くん駄目!」

「そうだ、やめろよ棗姉さん!」

 あたしと裕貴くんは、物騒なものを突きつける棗くんを引き剥がしにかかったけれど、棗くんの銃を持つ片手を動かせないどころか、逆に間違って引き金でも引かれたら大惨事だとあまり力を込められない。

 須王の手も剥がれない。
 鋼の肉体を持つ彼らに、あたし達の力はあまりにも貧弱すぎた。

 こちらの制止などものともしない、棗くんの顔が怖い。
 これは……〝殺気〟だ。
 いつも冷静な棗くんが、裕貴くんのお姉さんを殺してもいいと思っている。

「棗くん、正気に戻って! 棗……」
「ぶははははは」

 あたしの必死の叫びを笑い声で掻き消したのは須王だった。

「なんでお前も裕貴も、俺らをとち狂ったように思うんだよ。俺らは正常、最初から正気だ」

「え……」

 棗くんに同調している須王は、いつもの顔を見せていて。
 
「ち、違う。裕貴……助けてっ」

 お姉さんの悲痛な叫びが、さらなる混乱を招く。

 あたしは裕貴くんと顔を見合わせた。
 判断を誤れば、大惨事になるかもしれない。

 だけど、ふと思った。
 棗くんと須王がAOPでおかしくなったとして、お姉さんをどうこうするメリットってなに?
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