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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
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ふぅふぅ言いながら、廊下を歩く。
おそらく中に入っているのはベースと思われる……黒いソフトケースの把手を肩に掛け、反対側の肩から下げているのはずっしりと重い横長のシンセ(サイザー)。
手には、シンセを乗せるスタンド(折りたたみ式)と、有名メーカーのギターアンプ。アンプの上に置いた袋の中には、数々のエフェクターやケーブルやシンセやギター用のペダルが覗いて見える。
またステージに設置されている大きなアンプは大抵客席の方に向いており、演奏者に音が返ってこないために、演奏者が自分の音を聞くための小さなモニターアンプと呼ばれるものも何個か入っているようだ。
「体力には……自信があるとはいえ、これは中々……」
明日、筋肉痛かなあ。
全部合わせて多分あたしの体重を超えるだろう荷物を運びながら、内勤でぬくぬくしていたあたしの鈍った身体が悲鳴を上げているのを感じ取る。
だけど、体力仕事で根をあげるなら、編曲しろだの、あの車で遠出しろとか言われた方が大変だと、重い荷物を快く運んだ。
早瀬から送りつけられたメールを見たら、イベントの関係者用として用意された部屋ではなく、その並びの最奥にある一室を借りて(脅した?)いるらしく、ゾンビさながらにふらふらしながらドアを開けると、ギターを持っていた裕貴くんが頭を抱えて叫んでいた。
「耳で覚えろなんて無理っ!! 目でも理解できる音符の譜面が欲しいっ」
譜面?
「早かったな」
一方、裕貴くんと同じパイプ椅子に優雅に座ったまま、わかりきったことを口にする早瀬。わざとだろうな、この勝ち誇ったような笑みは。